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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)10141号 判決 1960年5月31日

原告 二葉靖

右訴訟代理人弁護士 高橋諦

被告 KK千葉相互銀行

右代表者代表取締役 平塚六郎

右訴訟代理人弁護士 佐々野虎一

右訴訟復代理人弁護士 満園勝美

主文

原告と被告との間に、債権者、被告、債務者、二葉正之助、担保提供者を原告とし、別紙目録記載の不動産につき昭和二七年五月一〇日設定された債権元本限度額二〇〇万円の根抵当権は存在しないことを確認する。

被告は、原告に対し前項不動産につき東京法務局葛飾出張所昭和二七年五月一四日受附第三、五四三号をもつてなされた根抵当権設定登記の抹消登記手続をなすべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

本件不動産が原告の所有に属すること、右各不動産上に原告主張の日時その主張する根抵当権設定登記がなされていることについては当事者間に争いがない。

先ず、昭和二七年五月一〇日本件不動産につき原告と被告間になされた根抵当権設定契約は、原告の代理人訴外二葉正之助と被告間になされたものであるとの被告の主張につき判断する。証人二葉正之助の証言、原告二葉靖本人尋問の結果によれば乙第一号証(根抵当権設定契約書)の二葉正之助及び原告二葉靖の記名部分は、二葉正之助が右契約書作成の際に依頼した代書人大江登の記名に係るものであり、夫々の記名下の捺印は何れも各名義人の実印であつて、二葉正之助の実印は同人が同意して又原告の実印は二葉正之助が持参して代書人大江に託して、右大江が捺印したものであること、が認められるけれども、右の契約書に担保提供者兼連帯保証人として表示されている原告が、右の契約当事者となること及びそのために自己名義の実印を使用することにつき二葉正之助に対し承認を与えた点に関しては、之を認めるに足りる証拠はない。従つて右契約締結につき二葉正之助が原告から代理権を与えられて之をなしたとの被告の主張は理由がない。

次に被告の表見代理の主張について判断する。証人伊藤重同高橋義司の証言によれば被告が前記根抵当権設定契約を締結するに当り被告銀行員伊藤勝重を二葉正之助方に赴かしめ調査したところ、右正之助は担保物件となる本件不動産は二葉正之助方に同居している同人の義弟である原告の所有名義になつておるか事実上は正之助の所有であつて従来二葉正之助が事実上右不動産を管理していること、及び二葉正之助は本件不動産を右契約の担保とすることにつき名義人である原告の承諾をえていると述べたこと、並びに、二葉正之助が原告名義の実印及び右不動産の権利証を所持したことにより、被告会社の右銀行員は同人が本件不動産を右契約の担保となす権限があるものと信じた事実(本件不動産の真の所有者は正之助であるか、そうでなく真の所有者が原告であるとしても正之助が原告を代理して本件担保権を設定することを原告が承認していたものと信じた事実)が認定される。

しかして証人二葉正之助、同二葉操枝の証言によれば、原告が昭和一六年四月相続により取得した本件不動産は、原告の全財産であつて原告が終戦半年位前応召して昭和二三年復員する迄の留守中並びに原告が復員して二葉正之助方に同居して同和鉱業株式会社に勤務し昭和二七年五月仙台に転勤するに至る迄の間、二葉正之助が終始右不動産の管理即ち地代家賃の取立右不動産の賃貸その他納税等を原告に代つてなしていたこと、又原告名義の実印は、原告が二葉正之助宅に同居中は原告と同人の共同使用の金庫中に保管され、又原告所有不動産の権利証は二葉正之助が保管していた事実が認められ、右認定に反する原告二葉靖本人尋問の結果は措信できない。これら認定事実を考え併せると、二葉正之助は本件不動産につき永年原告に代つて地代家賃の取立その他一切の管理をなしていたことが認められるから右正之助は民法第一一〇条の基本となる代理権を有していたものと認めるを相当とする。しかし、本件弁論の全趣旨と証人伊藤勝重、同高橋義司の証言によると、被告銀行は主債務者正之助の言を信じ担保提供者である原告に対しては直接に面会は勿論、書面その他によつて担保提供をしたかどうかの事実を確めなかつたことが認められその確めなかつた理由として、原告と正之助の身分関係、正之助と原告が同居しており、正之助が原告の印鑑と本件不動産の権利証を所持していたことによることも同時に認めることができる。

しかして銀行業を営む者が二百万円にものぼる金円貸付を不動産担保によりなすとき主債務者と担保提供者と異る場合、しかも担保提供者の全財産にひとしい不動産を担保に供する本件のようなときはたとえ前記認定のような事実があつても直接担保提供者について調査すべきであつて、主債務者である正之助の言をたやすく信じたことは軽率であつて被告銀行は民法第一一〇条による正当の事由があつたと言うことはできない。

つぎに債務の一部履行による無権代理行為追認の主張について判断する。

民法第一二五条の規定は無権代理行為に適用がないのみならず、被告の右主張を正之助が被告に対して負担している本件被担保債権の内に原告が根抵当物件の一部を売却してその代金の一部七万円を弁済しその際暗黙に、さきになされた正之助の無権代理行為を追認したとの主張に解するにしてもこれを認めるに足りる証拠がない。すなわち本件弁論の全趣旨によりその成立を認める甲第四号証の一、二、成立の争のない乙第六号証の一、二証人二葉正之助、同高山四郎の各証言並びに原告本人尋問の結果によれば原告は昭和三十一年十二月二十七日、本件根抵当物件の一部である東京都葛飾区金町三丁目一、九三一番地の一四宅地七十二坪八合六勺を訴外柴田義光に売却し、その代金の内から金七万円を正之助が被告に支払つたことが認められ、証人二葉正之助の証言によると右売却及び弁済は正之助が原告の承諾を得てなしたものであり原告が右弁済をしたものでなく本件根抵当権設定契約を追認したことを認めうべき証拠はないから被告の主張は採用できない。

はたしてそうだとすると、被告がその存在を主張し、しかもその登記のある前記根抵当権は存在しないのでこれが不存在確認と、右登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、民事訴訟法第八十九条により訴訟費用は被告に負担させ主文のとおり判決する。

(裁判官 地京武人)

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